2021.4.3 第五回「原発と人権」研究・市民交流集会 in ふくしま
http://genpatsu-jinken.net/09event/index.html


複数の専門家が重要な報告をされている。そのうち米沢と東京の避難者の住宅問題について,井戸謙一弁護士が約 14 分の報告をされている。(行頭の数字は再生経過時間)

4:22:05 借り上げ住宅の明け渡し問題の現状について
「避難者の住宅問題・断章」
米沢追い出し訴訟,雇用促進住宅明け渡し訴訟弁護団
井戸謙一弁護士
断章というのはわたしが関与した範囲でしかお話できないという意味。
災害時の住宅提供制度から説明。
4:23:44 日本における被災者に対する住宅供与の法的枠組み
(画面の「給与」は誤字)
子ども被災者支援法は理念法。特別立法が必要だった。
4:27:30 区域外避難者に対する住宅支援打ち切り
2年経過後に立ち退かない場合は,家賃の 2 倍の損害金を支払うという契約であった。
4:29:30 未退去者に対する措置
米沢の雇用促進住宅 8 世帯・・・「興味ぶかい論点」
東京の国家公務員住宅入居者のうち,住宅セーフティネット契約を締結しなかった 8 世帯・・・これから本格的審理が始まる
4:35:20 福島県の行為の違法性
社会権規約 11 条違反
国内避難民指導原則違反
いずれ,明け渡し,家賃 2 倍請求の提訴がある。是非,ご支援をお願いしたい。
4:36:36: 井戸弁護士報告おわり。
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(編集者コメント。4月10日修正)
注目したいポイントは以下の3つです。
1)子ども被災者支援法は理念法。特別立法が必要だった。
2)東京の国家公務員住宅入居者のうち,住宅セーフティネット契約を締結しなかった 8 世帯・・・これから本格的審理が始まる
3)福島県の行為の違法性
社会権規約 11 条違反
国内避難民指導原則違反
いずれ,明け渡し,家賃 2 倍請求の提訴がある。是非,ご支援をお願いしたい。

1)子ども被災者支援法の他に,特別立法が必要であった,と明言されたことです。市民の側には「子ども被災者支援法にはなんの欠陥もなく,実施しなかった政府が悪い」という見解もあるのですが,それでは法改正も特別立法も必要ないという論理になり,事態が動かないままになっています。特別立法が必要だという立場にたって初めて,つぎの展開の可能性がひらけるとおもいます。井戸弁護士の見解を支持したいとおもいます。

2)井戸弁護士は,いわゆる住宅セーフティネット契約の法制度については言及されていないのですが,国土交通省のHPに解説があります。
結論からいえば,もともとは住宅困窮者一般を救済する制度であり,原発事故被災者も救済対象には入れられたが,放射能災害という特殊な災害の被災者のための制度ではない,ということです。したがって2年では解決策にならないし,高額の家賃負担や,退去しない場合は家賃2倍相当の損害金という契約自体,被災者救助とはいえないものでした。
よくいわれる「家賃2倍」という表現は契約の存在をかくす効果があり,正確には「家賃」ではなく契約上の「損害金」です。「2年後までに退去しない場合は家賃の2倍相当の損害金を支払う」という自由契約ならば,当事者にはその契約を順守する法的義務が発生し,裁判になれば圧倒的に不利になることは最初からわかっていたことです。
これまでのところ,被害当事者や支援者からの情報発信ではこの契約の存在にはまったく言及されず,「一方的に家賃を2倍にされる」かのような表現が強調されています。これでは善意の支援者を誤解させるのは必然です。契約の存在と内容を公開したうえで支援をよびかけるのが筋です。
支援者がすべきことは,当事者と役所のあいだを善意で仲介してとりあえず事態を収拾してあげることではなく,国連の指導原則や勧告を一緒に学習し,被害当事者が主体性をもって権利を自覚し,主張できるように支援することであるはずです。

3)社会権規約には規約委員会による一般的意見(General Comments)があり,とくに第4と第7は,この問題では重要不可欠です。裁判では規約条文だけでなく,一般的意見について十分な説明と主張をする必要があるはずです。第4では「安全に,平穏に,人間としての尊厳をもって生きる場所をもつ権利」が確認され,第7では「強制退去は人権侵害にあたるおそれがある」ことが確認されています。規約自体は日本政府も自治体も,法的に順守義務があるので,強く主張し,世間にも訴えるべきとおもわれます。
井戸弁護士が「国内避難民指導原則」といわれているものは,人によっていろいろの訳し方がされています。2019 年 11 月に外務省が公表した政府訳では「国内避難に関する指導原則」とされているので,裁判では形式上これを採用するのが無難かもしれません。ただし理論上,最適の訳といえるかは検討の余地があります。この指導原則は,原発被害にかかわる多数の裁判や,政府交渉,自治体交渉,市民運動で,被害者側がほとんど無視し,沈黙してきた経過があるのですが,正面からとりあげられることを歓迎したいとおもいます。(文責:寺本 和泉)
(資料)
外務省が公表した国連の「国内避難に関する指導原則」
国内法と条例への反映をどう展望するのか