共同通信 2021年2月20日
福島の県外避難者数、実態把握へ
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(編集者コメント,2月26日加筆修正)
東日本大震災・福島原発大惨事から 10 年になる今も,日本には原発事故をふくむ避難者の法的定義がなく,行政による便宜的定義しか存在しない。そのため,内閣や自治体によって数がくいちがったり,事務的に変動することがある。
避難者による任意の届け出をもとにしているため,登録は避難者の自己責任にされている。一方で,避難者の名簿が,支援団体をなのる任意団体に(助成金をつけて)提供され,一方的な接触を受けて恐怖や困惑に感じる人もあり,登録していない避難者も多数存在する。しかも,報道は福島県からの避難者しかとりあげないが,避難元は福島県だけではない。文部科学省が公表している範囲でも,放射能汚染は東北,関東のひろい地域にひろがっている。避難者はそうした地域から全国(と国外)にちらばっていることは周知の事実だ。
放射能事故の場合,行政区画には関係なく,避難元の実際の放射線量が,放射線事故後に,法律にさだめる一般公衆の被ばく限度を超えていれば避難には正当性があるとみとめて保護すべきであろう。現状ではそのような定義のないまま,任意の避難者登録は受けつけるが保護するとは限らない,という制度になっている。また,登録のときに,自分の個人情報を(公共機関その他の)民間団体等に提供することに同意の署名をしなければ登録自体が受けつけられない。
本来ならば,正当な避難の客観的状況を定義し,それに該当する者に公的保護をあたえることを法律または条例に規定し,公表すべきであろう。そうすれば,たとえば避難先の現地で避難者と接触している社会福祉協議会や公共機関や支援団体から,そのことを避難者に伝えることも可能になる。本人が避難者登録制度を知らなくても,客観的状況が該当すれば避難者とみとめるべきであり,登録を推奨して保護すべきである。その際,登録を受けつける機関とは別の(公共機関その他の)民間団体に,自分の個人情報を提供することに同意の署名をしなければ登録をさせない,といった差別的あつかいをしてはならない。

なお,被災者・被害者のなかには「保護」や「支援」という用語を否定して「賠償」という用語を求める考えがあるが,ここで問題にしているのは人権にもとづく社会的(社会全体による)保護であって,裁判で結論を出す損害賠償とは別の価値体系であり,「保護」や「支援」は正当な用語である。そうした用語を否定することは,人権にもとづく社会的保護という概念が欠如していることのあらわれである。残念ながら日本社会の多数派はこの状態にあると考えられる。人権にもとづく保護責任の主体である政府が,たまたま原発事故の加害責任の主体でもあったという事情から混同が起きているともいえる。
もちろん損害賠償の裁判で人権を問題にすることは正当である。人権の価値がすでに世界的に確立されている(まさに存在している)もとで,公権力がこれを無視するならば,損害賠償と人権保護は重複する責任問題となる。しかし損害賠償の判断がどうであれ,事実が発生しているならすぐに保護を実施すべきことは人権にもとづく要請であり,公権力にその実施責任があることは憲法と国際法秩序から当然のことである。事実とは,すなわち「放射性物質が法的な基準を超えて拡散したこと」であり,「被災者・避難者が発生し,困難が生じているということ」にほかならない。現在の日本社会では「事実(存在するもの)から目をそらす」政治がおこなわれている。これは土壌の放射性物質の核種と線量を調べないこと,避難者の正確な数と実態を調べないこと,新型コロナウイルスの対応における PCR 検査の抑制でも共通しており,病根は深い。
つけくわえれば,ベラルーシ,ウクライーナ,ロシアのチェルノブィリ法はいずれも「・・・影響を受けた市民の社会的保護について(の法律)」と書かれている。すなわち加害者に賠償させる法律ではなく,社会全体が(公権力が)被害者を保護する法律である。日本とはまったく異質の社会だからできたのであろう。
  
災害時の広域避難者のための二重の住民登録制度も一時提唱されていたが具体化されていない。
実際には,やむをえず避難前の住所に住民登録を残したまま,長期の避難をつづける人のこどもの公立高校編入を避難先の教育委員会が拒否するという人権侵害の事例がある。もし当事者が国連の協議資格をもつ NGO の協力を得て国連に通報すれば,国連加盟国から日本に対して改善勧告が出る可能性が高いとおもわれる事例である。
 
日本政府は 2017 年 11 月,国連人権理事会で国連の「国内避難に関する指導原則」を福島原発事故の被災者に適用するように勧告を受け,2018 年 3 月に正式に同意した。 2019 年 11 月には日本語訳を外務省ホームページに公表したが,法律や条例に反映されていないため事態は改善されていない。内閣だけの責任を追及すればよい,という問題ではなく,被害者団体や市民社会が認識して声をあげるべき問題だろう。もちろん公務員や公職の議員(国会および地方議会)の意識と能力が問われている。(文責:寺本和泉)
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(参考)
復興庁
全国の避難者の数(所在都道府県別・所在施設別の数)
外務省 緊急人道支援のページ
国連「国内避難に関する指導原則」(仮訳)
国連人権高等弁務官事務所
「国内強制移動に関する指導原則」(国内避難に関する指導原則)
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(関連記事)
原発事故被害者と市民の運動の方向性をかんがえる
http://starsdialog.blog.jp/archives/84989028.html
チェルノブィリ法制定を時系列でみる(簡易版)