「国際人権法 人間の尊厳の尊重・確保と司法」 山下 潔 著
日本評論社 2014年6月25日 第1版第1刷発行
https://www.nippyo.co.jp/shop/book/6558.html

(7月16日修正)
弁護士が書かれた本であり,標題はむずかしそうだが,わかりやすいコトバで具体的に書かれている。
国際人権法とはなにか,を解説する本はすでに多数出ているらしいが,グローバリゼーションなど現在の日本がおかれている全体状況を正確に見抜いたうえで,弁護士としての豊富な実践をふまえ,法律家と市民社会にどんな役割と可能性があるのか,展望を示した本,という印象を受ける。原発事故被害者の人権回復をめざしたい人や,国際人権法によって日本社会の質を高める展望をもちたい人にとっても,示唆に富む出版だとおもわれる。
目次を見て,おもしろそうな第 8 章から読みはじめたところ,いきなり司法修習生を対象にした講師と修習生の討論が展開されており,まるで自分が特別に聴講させてもらっているような気になってしまった。そのまま最後まで読み,最初にもどって全部を読み終えた。

まず本書標題にある「人間の尊厳」とはなんだろうか? 著者は本書のなかでたびたび言及する。
憲法では第 13 条「すべて国民は,個人として尊重される。生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とする」という規定がある。(なお,人権に対して「公共の福祉に反しない限り」という制限をくわえているのは日本だけであり,世界標準からは認められないそうである。)
ドイツ連邦共和国憲法(1949年5月23日公布)では,第 1 条に「人間の尊厳は不可侵である。これを尊重しかつ保護することはすべて国家権力の義務である」と規定しているそうだ。
著者によれば,人間の尊厳は「近代法の根本理念」であり,「自由と平等の権利は個人の尊厳に由来している」という。また,憲法 13 条は「人があらゆる場面で自己の人格的価値を尊重される権利を有することを意味している」と説明する
では「尊重・確保」とはどういう意味だろうか? 小生などは「尊重・確保」では弱いのではないか?「人間の尊厳は不可侵である」と宣言してほしい気がするが,実はここでいう「確保」というのは,英語では ensure であり,世界人権宣言や国際人権規約で「人間の尊厳の尊重とそれに由来する自由と平等の権利」についていわれている表現であり,その意味は「必ず実現する」あるいは「実現せずにはおかない」という強い意味なのだそうである。著者によれば,日本国憲法における「保障する」よりも強い意味であるという。

著者は日本人が外国で巻き込まれた複数の事件に国際人権法を活用して勝訴,あるいは検察の無罪求刑をひきだすなどした成功例を説明している。これはいままで知らなかった話であり,興味ぶかく読むことができた。
また,単に国際人権法を説明するだけでなく,現在の日本の司法制度,弁護士と弁護士会の国際人権法の取り組み,市民社会との協働の可能性など多面的な問題について遠慮のない,明確な提言を多数書かれている。興味のある方は本書を手にとられたい。たとえば原発事故被害者と支援者のなかでも話題になる「国際法を知らない裁判官,弁護士,検察官がなぜ存在するのか」も見えてくるし,方向性も提示されている。ひきつづき学びたい本である。

ただ,シロウトの立場からいわせていただくと,社会権規約をA規約,自由権規約をB規約とよぶ記号化手法は,もともと日本の外務省だけが便宜的にやりはじめたと読んだ記憶がある。国連では文書番号はあっても,条約自体を記号化して呼ぶことはないだろうから,本書で終始,正式名称のようにあつかうことには違和感をおぼえる。
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