第 1 版からのおもな改訂
*指導原則の標題を「国内強制移動に関する指導原則」から「国内避難に関する指導原則」と変更した。これは 2019 年 11 月 15 日に外務省が公表した仮訳による。
*その他,詳細な修正をおこなった。
*英語原文と 2 種類の日本語訳の対照は別表を作成中。(パンフレット版のみ)
*外務省仮訳における特徴と疑問点については編集中。
* GPID 日本語版作成委員会訳「国内強制移動に関する指導原則」(2010)も,ひきつづき参照すべき訳と位置づける。
*2020年1月4日,4. 【標題をどう訳すか】に補筆。
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(表紙)
標題: 国連「国内避難に関する指導原則」とは? 自主学習からはじめよう!(第 2 版)
説明文: 2017 年 11 月,国連人権理事会の作業部会でポルトガルから日本に対して勧告され,2018 年 3 月の人権理事会本会議で日本政府代表が「フォローアップすることに同意」した「国内避難に関する指導原則」とはどんなもの? どのような使い方があるのでしょう? わたしたちにできることは?
 
1. 【はじめに】
このパンフレットは,国連「国内避難に関する指導原則」(外務省仮訳)と組み合わせて自主学習をする方に話題を提供するためのものです。
もともと,この指導原則は 1998 年 2 月,国連の「国内避難民の人権に関する国連事務総長代表」であるフランシス・M・デン氏によってまとめられ,人権委員会(当時)に提出された専門家文書です。
これまで日本政府の公式訳はなく,21 年 9 か月後の 2019 年 11 月になって外務省はこの仮訳を公表しました。なお,GPID 日本語版作成委員会訳の「国内強制移動に関する指導原則」日本語版(2010)もひきつづき参照すべき訳と位置づけます。

 
2. 【指導原則を知ることはなぜ必要なのか】
日本は昔から災害大国です。だれでも災害,公害,大きな事故などで国内避難民になる可能性があり,国内避難民を受けいれる(接する)立場になる可能性があります。この指導原則にはあなたの権利が書かれており,あなたが国内避難民に接するときに必要な原則が書かれています。
たとえば,いわゆる「難民」と「国内避難民」の区別を知らなければ,それらの法的枠組みや権利のちがいを知ることもありません。権利を知らなければ主張もできず,保護もできません。知らないまま一生を生きるのと,一度学習して知っておくのとでは大ちがいです。

 

3. 【国内避難民自身の学習と支援者の学習】
国内避難民自身がこの原則を学んでおけば,自分と子どもに本来どのような権利があるのかを自覚するのに役立つでしょう。手記を書いたり,集会で発言したり,議員への要請,行政との交渉,裁判での弁論などで,それを展開できるはずです。
また,災害や公害や事故の避難者が適切に保護される国になるように,日本社会全体の課題として運動していくという展望があることが納得できるでしょう。
支援者は国内避難民と同じ立場で学習をしましょう。まちがっても,国内避難民に対して政府の不当な強制移動政策に妥協するように誘導したり,当事者でもないのに勝手に条件交渉に移行してはなりません。


4. 【標題をどう訳すか】
これまで,この指導原則の標題は「国内強制移動に関する指導原則」あるいは「国内避難民の指導原則」とも訳されています。どちらかといえば前者の方が原文に忠実といえますが,「強制移動」という語がわかりにくく,「強制避難者だけに適用されるのか?」という誤解をうみやすいかも知れません。また「国内避難民の指導原則」という訳はわかりやすいのですが,英語原題に「国内避難民」を意味する語はなく,その意味ではやや不自然さがありました。
今回の外務省仮訳で原文の displacement を「強制移動」ではなく「避難」としたことは,おおむね妥当な判断と考えられます。なぜなら,もともと displacement には強制移動と自主避難の両方をふくんでいるにもかかわらず,「国内強制移動に関する指導原則」という訳では強制避難だけを意味するのか?という誤解が生じやすかったからです。今回「避難」と訳したことで,displacement の原義とも矛盾せず,かつ日本語の自然な理解として「強制移動と自主避難の両方をふくむ」と理解できます。ただし,条文の全体を検討すれば,問題がある可能性はあります。たとえば指導原則第二部で「強制移動からの保護」という概念を「避難からの保護」と表現することで,正当な自主避難を公権力が抑止したり,仮設住宅からの不当な強制立ち退き(強制移動)から保護されなければならないという問題から目をそらされる,という可能性が考えられます。

 
5. 【日本語版全文テキスト】
*2019 年の外務省仮訳は以下にあります。
 外務省 緊急人道支援のページ
 国内避難に関する指導原則 仮訳(PDF)
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000536758.pdf
*2010 年の GPID 日本語版作成委員会訳の全文は以下にあります。
 「国内強制移動に関する指導原則」
 http://www2.ohchr.org/english/issues/idp/docs/GuidingPrinciplesIDP_Japanese.pdf
 
6. 【2010年の GPID 日本語版作成委員会訳の内容構成】
序言 ヴァルター・ケーリン国内避難民の人権に関する国連事務総長代表
指導原則
  序   範囲および目的(1-4)
  第一部 一般原則(原則 1-4)
  第二部 強制移動からの保護に関する原則(原則 5-9)
  第三部 強制移動が継続する間の保護に関する原則(原則 10-23)
  第四部 人道的援助に関する原則(原則 24-27)
  第五部 帰還,再定住および再統合に関する原則(原則 28-30)
日本語版作成についての注記  

 
7. 【国連ホームページ】
Guiding Principles on Internal Displacement
国連難民高等弁務官事務所(おそくとも2019年12月5日までに日本語版(委員会訳)が削除されている。)
https://www.ohchr.org/en/issues/IDpersons/pages/standards.aspx
国連広報センター(初期の印刷物からデータ化したとおもわれる)
http://www.unhcr.org/protection/idps/43ce1cff2/guiding-principles-internal-displacement.html

 
8. 【外務省ホームページ】
これまで外務省ホームページにはこの指導原則の政府訳がありませんでした。
2018 年 7 月 4 日に衆議院第一議員会館で開催された集会において外務省担当者は「政府訳作成のため新年度予算を得て進めている」との説明をされていました。
外務省 UPR(普遍的・定期的レビュー)の概要
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000346504.pdf
2019 年 11 月 15 日に,指導原則本文の仮訳が公表されたことがわかりました。
外務省 緊急人道支援のページ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jindo/jindoushien1_1.html
関連リンク(人道支援に関する主な国際ガイドライン)
国内避難に関する指導原則(Guiding Principles on Internal Displacement)
英語本文
https://www.ohchr.org/en/issues/IDpersons/pages/standards.aspx
仮訳(PDF)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000536758.pdf 
なお,外務省仮訳では指導原則本文だけが公表されており,GPID日本語版作成委員会訳のように,事務総長代表後任者の序言や日本語版作成についての注記はないので,ひきつづき後者の資料価値は重要とおもわれます。

8-2. 外務省仮訳における特徴と疑問点(編集中)

 
9. 【2017 年 11 月の国連人権理事会における勧告】
福島原発事故のすぐ後,政府交渉などでこの原則に言及した団体や個人はありましたが,被害者と支援者の運動の主流ではとりあげられず,事故から 6 年 8 か月後の 2017 年 11 月になって,国連人権理事会作業部会でポルトガル政府代表から日本に対してこの指導原則の適用について勧告があり,さらに 4 か月後の 2018 年 3 月に人権理事会本会議で日本政府代表が「フォローアップすることに同意」したことから注目されるようになりました。(外務省文書によれば「フォローアップすることに同意」の意味は「支持する」ということである。)
資料:国連人権理事会で日本はなにを勧告されたか(福島第一原子力発電所事故に伴う被害関連)
http://starsdialog.blog.jp/archives/76549008.html
 
10. 【強制移動とはなにか】
この指導原則をまとめたデン国連事務総長代表は,自身がスーダン内戦における国内避難民の体験者であるそうです。この指導原則は作成当時の世界的規模の必要により,武力紛争時における,政府や武装勢力による人々の強制移動をも想定したものといえます。すなわち,displacement には武力による強制移動(forced displacement)の意味がかなり明白にふくまれていると考えられます。現在の日本では,武器を持った勢力による強制移動が存在することはほとんど想定されないため,日本人が「強制移動」という語に違和感をもつことはやむをえないと考えられます。(国民保護法との関係については検討の必要性があるかもしれません。)
しかし,武力紛争でも災害でも,権力は強制移動(避難)させた人と自主避難者の両方を世界標準の人権の基準にもとづいて保護する義務があります。「自主避難者だから保護しない」という政策は,人権を理解しない思想として批判をあびることになるでしょう。
保護の義務は第一義的には国家当局 (National Authorities) にあり,地方自治体にも保護の義務があります。なぜなら公権力には国際法を順守すべき明白な義務があるからです。市民社会も相応の義務があり,保護を実施する主体として協働します。外務省仮訳では National Authorities を「国内当局」と訳していますが,これがどういう範囲を意味するのかの説明が指導原則本文とは別にあってもよいと考えられます。
強制移動には,正当な(やむをえない)強制移動と,不当な(恣意的な)強制移動がありえます。たとえば,福島原発事故で政府が放射能汚染の高い地域の人々を比較的汚染の低い地域に強制避難させたことはおおむね正当な強制移動といえます。それは公権力から見れば「強制移動」であると同時に,避難民から見れば「強制避難」といえます。
しかし災害救助法による仮設住宅に無償入居している自主避難者に対して,正当性もなく,救済策もなく,本人の納得もないのに,有償化や強制退去をさせることは,すでに「避難」ではなく,不当な強制移動にあたると考えられます。紛争であっても災害であっても,権力による不当な強制移動を防止(軽減)することが指導原則の目的のひとつです。ここにもともとの「強制移動」という訳のひとつの意味があります。(編注:2019年11月の外務省仮訳における「避難」「移動」「強制移動」の訳語の使い分けについては 8-2. 外務省仮訳における特徴と疑問点に記述予定。)

 
11. 【法的拘束力がないことの意味】 (2019年4月27日に冒頭から文中の*までを補筆)
この指導原則は国連の専門家文書であり,法的拘束力がないため,そのことを形式的にとらえて拒否または傍観の理由にする公務員や市民がすくなくありません。しかしこれは指導原則の社会的意味への無理解から出ているものです。形式的に法的拘束力がないことは拒否や傍観の理由にはならないのです。
もともと人権理事会のさまざまな勧告や指導原則は,国際法を根拠として出されるものであり,形式的(事務的)には(特定国への勧告の場合は)加盟国の政府(国家当局)に対して出されるものですが,内容的(価値的)にはその加盟国(の社会全体)に対して出されるものです。つまり,その国のなかで,国際法を順守する義務の主体であるすべての機関(憲法や法律や条例によって設置されている公共機関)や,さまざまな社会単位(市民運動をふくむ)に対しても出されているといえます。指導原則でも勧告でも,「政府がこれを無視したから」といって市民があきらめてしまうのではなく,国会における立法化,地方議会における条例化,その他の社会単位における規範化において生かすべきものです。(*)
また,この指導原則自体に法的拘束力がないことは弱点ではなく,ひとつの効果的な方法なのです。
この指導原則は,世界人権宣言 (1948) をはじめとして,すでに国際法に確立された普遍的な人権の価値を,国内避難民が発生しているという実際の状況においてどのように実現すべきかを整理し,明文化したものです。
まず,法的拘束力があるかどうかは形式の問題です。法的拘束力があってもなくても,そこに提示されている人権の価値を実現するかどうか,日本の公権力と市民社会が問われているのです。
一般に,法的拘束力のある文書にするためには,条約化してそれぞれの加盟国が批准するかどうかを選択する方法があります。しかしそのために長い時間がかかるだけでなく,加盟国は主権国家としてそれに反対する自由,批准しない自由があり,拒否できる権利を維持することができます。そうすると,人権に危機がせまっているときに,ある加盟国のそのときの支配者が問題改善を堂々と拒否できることが正当化できてしまいます。それでは国際人権規範全体が無力化されるおそれがあります。
そのような構造的展開を防止し,かつ人権侵害事態の悪化にすみやかに対応するために,条約化ではなく,法的拘束力のない一般的な指導原則や,特定の国に対する勧告を(一方的に)宣言するという方法がとられるのです。勧告の場合,事実調査や,当事国政府(あるいは実質的権力者)との意見交換が慎重に,建設的に,かつ礼儀正しくおこなわれます。そのうえで(一方的に)宣言されることに意味があります。だれかがその時の当事国の国家当局などと交渉し,政治的に問題の解決を図ろうとする手法は人権の保護のための方法として有効に機能しない場合がしばしばあります。当事者でない者が勝手に条件交渉をしてはならないことの意味はここにあります。
したがって,原発事故の被害者や支援者が,「法的拘束力がないからだめでしょ」と自分から手を引いてしまい,仲間の運動の足をひっぱるような手法では,運動の展望を失い,被害者を深い失望に追いやるおそれがあります。


12. 【国際法にもとづく保護義務は,国内法にもとづく加害責任とは独立した価値体系】
純粋な自然災害において,だれにも加害責任がない場合でも,国際人権法にもとづく保護義務は第一義的に国家当局にあります。公害や事故など加害者が存在する場合,国内法による加害責任にもとづく賠償や救済は国内法の法的枠組みで実施されるはずです。(原発事故の場合,本来あるべき放射性物質を対象とする公害法が未整備であり,「原子力損害の賠償に関する法律」は原子力事業者の保護を重視したものであるという問題があります。)国際人権法のなかでも保護義務と加害責任は密接に関連づけながら議論されることになります。
しかし加害責任の結論がどうであれ,国内避難民が発生している以上,公権力の人権保護義務は独立して存在しており,被害者はその両方(人権保護と加害責任)に対して(二重の)権利があるのです。このことが現在の日本社会では共通理解になっていません。高度な教育を受けた良心的専門家や被害者自身が,原発事故に加害責任のない地方自治体に保護を要請することに反対したり,「人権」をつよく主張しながら「支援」というコトバをつよく嫌悪するという矛盾もこのためです。

 
13. 【「この指導原則は目標を立てている」という誤解】
2018 年 7 月に横浜で開催されたシンポジウムで,ある著名な学者が,「この指導原則は目標を立てている」と説明したと伝えられています。事実ならば注意が必要です。この指導原則は 20 年前の時点ですでに確立されていた国際法の基準を,国内避難民が発生している状況のもとで,人々の人権保護に適用する「原則」を書いたものです。もしこの指導原則に対して「目標」という性格をあたえるならば,公権力による国内避難民放置を国連が際限なく許容する,という結果になるおそれがあります。「法的拘束力がないから目標だろう」というのは不注意な推測にすぎません。

 
14. 【グローバー勧告との関係】
2012 年 10 月に第 2 回の UPR (普遍的定期的レビュー)対日審査でオーストリア政府代表から日本に対して「人権理事会が選任した健康の権利特別報告者の訪日調査を受け入れるように」勧告がありました。日本政府がこれを受けいれて特別報告者アナンド・グローバー氏を正式に招待し,同氏は 2012 年 11 月に訪日して調査をおこない,2013 年 5 月に人権理事会に詳細な報告書(国連グローバー勧告)を提出しました。それは個人的判断で書かれたものではなく,国連から報酬も干渉も受けない独立専門家として,すでに確立されている国際人権法および人道法を根拠とし,日本の国内法も援用して原発事故被害者の人権を守るための多面的な政策転換を日本に勧告したものです。日本政府がどのように反応しても,グローバー勧告は現在もそのまま有効です。
指導原則とグローバー勧告のあいだには 15 年の時間差があります。そして,指導原則は世界規模の一般的人権の基準として考えられたものである一方,グローバー勧告は福島原発事故による被害者の具体的人権を重視したものです。この両者を立体的に知ることで世界標準の人権とはどういうものか,理解は深まるでしょう。
資料:国際人権 NGO ヒューマンライツ・ナウ 福島・グローバー勧告関連
http://hrn.or.jp/activities/fukushima/

 
15. 【 IASC 活動ガイドラインとの関係】
IASC, Inter-Agency Standing Committee は機関間常設委員会と訳され,国連総会決議 46/182 により 1992 年に創設された人道援助の調整機関です。専門機関としての活動にくわえて多数のガイドラインや勧告を発信しており,日本でも民間や独立行政法人により,一部が翻訳されています。これも指導原則とあわせて読むことで,世界標準の人権の意味がより理解できるでしょう。
資料:「自然災害時における人々の保護に関する IASC 活動ガイドライン」(2011)
https://www.brookings.edu/wp-content/uploads/2016/07/0106_operational_guidelines_nd_japanese.pdf

 
16. 【国会議員の役割:国の立法化】
くりかえしふれてきたように,この指導原則自体には法的拘束力がないため,政府が積極的に生かそうとしない場合や,法的拘束力のあるものにするためには国会で法律の形に成立させるという方法があります。
この指導原則は,すでに 24 か国で国内法に「参照」されていることが 2018 年 6 月の人権理事会第 38 会期中に報告されています。領域内の人々の安全を守る法制度をつくることは国会議員(および地方議員)の重要な役割です。行政府(内閣)の実施責任を追及するだけでは事はすまないのです。

 
17. 【地方議員の役割:地方自治体の条例化】
国際法は地方議員や地方自治体もこれを守る義務があります。もし守らないからといって罰則はないかも知れません。しかし罰則があってもなくても順守義務はあるのです。その義務に対応して,国内避難民の人権を守る地方条例をつくる方法があります。このような条例ができれば,その土地の特性にあった防災・減災の対策のなかにこれを盛り込むこともできそうです。また,神戸市長や西宮市長が阪神淡路大震災の借上げ復興住宅にすむ高齢被災者に対して強制立ち退き裁判を起こしたようなことは困難になるでしょう。たとえ国内法上,裁判が可能であっても,社会権規約(経済的,社会的および文化的権利に関する国際規約)違反として,国連および世界から批判を受ける可能性が高いことが条例化から見えてくるからです。現在の地方自治のありかたをこの指導原則の条例化によって変えることは可能です。地方議員の出番です。

 
18. 【行政および司法機関の役割:国際法は国内法に優位することの実施責任】
国際法は憲法の下位,国内法の上位にあるということは裁判所,政府,学界の共通理解であるとされています。(日弁連「国際人権規約と日本の司法・市民の権利」)
最近では,「国際法に明確に反する憲法は無効である」という見解もあるそうです。
そもそも現在の日本の行政および司法の現場で,国際法が法規範として正当なあつかいを受けているでしょうか? 危機管理部署が国際法を認識しているでしょうか? 法治国家としての根幹が問われています。
とはいえ,行政および司法機関も社会的な力関係に影響されることがあります。まずは市民社会が国際法を自分たちの法規範として学ぶことからはじめ,行政および司法機関との協働をつくりたいものです。 

 
19. 【市民社会の役割:学校教育や住民自治や防災活動における明文の規範化】
原発事故で避難した人が,おとなも子どもも避難先で侮辱やいじめを受けたという話は多数報告されています。大阪府立の高校では,原発事故の避難者の子どもであっても住民票がなければ編入させてくれない,という複数の報告があります。前者の例では,多くの一般市民が「人権にもとづく保護」という意識をもっていないという状況を推察させますし,後者の事例では,この指導原則で禁じる国内避難民差別にあたるだけでなく,「子どもの権利条約」(第 3 条,第 28 条)に違反しているおそれがあります。
災害や事故が起きてからではなく,普段から,一般市民がこの指導原則を知識として知っており,役所が現実になにをしているか(あるいは何をしていないか)知ることが必要です。
また,大規模災害などで国内避難民が発生しているときに,生活地域の自主防災活動や,災害対応行政において,この指導原則が知識として知られておらず,実現されなければ人権侵害状況が問題として認識されないまま放置され,悪化するおそれもあります。学校教育,社会教育,地域防災会議,自主防災活動などのあらゆる場面で,普段からこの指導原則を周知し,学ぶ機会をつくることが必要ではないでしょうか?


20. 【グループ討論をしてみよう】
1) 2017 年 11 月の勧告は「国連からの勧告」なんですか? それとも「国連における勧告」?

2) ポルトガル政府が勧告した文章を見ると「男女両性の平等な参加」の項目だけを問題にしているように見えますが?

3) この指導原則の標題の日本語訳が定まっていないようですが?

4) この指導原則は将来にむけての「目標」を立てたものですか?

5) 「国内避難民に対する差別」にあたりそうな事例をさがしてみましょう。

6) 福島原発事故の自主避難者を国内避難民として認めるように,自主避難者有志がときの政府を相手に交渉すると,どういう結果が予想されますか? 

 
21. 【資料】
1) 国際環境 NGO グリーンピース・ジャパン
2018/03/19 国連の福島勧告、政府は「同意しただけ」にせず、施策への即時反映をーー原発事故被害者とグリーンピースが国連人権理事会で演説
http://www.greenpeace.org/japan/ja/news/press/2018/pr201803191/
2) 日本弁護士連合会
福島の復興再生と福島原発事故被害者の援護のための特別立法制定に関する意見書
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2012/opinion_120216.pdf
3) 成蹊大学 「アジア太平洋研究」 No.35  (2010)
「国内強制移動に関する指導原則」日本語版(p.146-163)
「国内強制移動に関する指導原則」日本語版注釈(p.164-211)
https://www.seikei.ac.jp/university/caps/japanese/04publication/journal_pdf/raps_no35.pdf
4) 信山社 「国内避難民と国際法」 島田征夫編著 2005
https://www.shinzansha.co.jp/book/b187379.html
5) 勁草書房 「国内避難民の国際的保護」 墓田  桂 2015
http://www.keisoshobo.co.jp/book/b210763.html
6) こうち書房 「国際人権規約と日本の司法・市民の権利」 日本弁護士連合会 1997
https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002652890-00
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(関連記事)
災害避難者の人権ネットワーク
提言:国連の指導原則とグローバー勧告の国内立法化について
http://starsdialog.blog.jp/archives/75634362.html
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(奥付)
標題: 国連「国内避難に関する指導原則」とは? 自主学習からはじめよう!(第 2 版)
編著: 寺本和泉 (テラモト イズミ)
発行: 災害避難者の人権ネットワーク
初版: 2018年7月16日
第 2 版: 2019年11月18日
連絡先: tarojii70suzume@gmail.com
この記事のアドレス: http://starsdialog.blog.jp/archives/76892154.html
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