(紹介)
日本居住福祉学会編
居住福祉研究 17 強制移住・強制立ち退き
2014 年 5 月

◇ 巻頭言 認知症の人の居住環境と留意点  渡辺 光子
■ 特集:強制移住・強制立ち退き
特集として「強制移住・強制立ち退き」をとりあげるにあたって  大本 圭野
原発事故による避難と居住に関する課題  塩谷 弘康
原発震災から 3 年,福島の実情と課題  伊東 達也
震災から 3 年 「県外避難者への住宅支援」  古部 真由美
公営住宅の追い出しの実態と課題  小池田 忠
応能応益家賃制度とは何か  美濃 由美
■ 居住福祉評論
国民不在の医療制度改革  山路 克文
スウェーデン住宅政策小史  高島 一夫
■ 2013 年 9 月 宇和島研究集会報告
精神障がい者の地域居住をどう支えるべきか  神野 武美


定価 本体 1000 円+税
2014年5月15日 初版第 1 刷
ISBN978-4-7989-1231-8

編集 日本居住福祉学会編集委員会
http://housingwellbeing.org/ja/
発行 株式会社東信堂
http://www.toshindo-pub.com/


記事のアドレス http://starsdialog.blog.jp/archives/6701447.html

(感想)
特集の最初にある大本圭野さんの文では「世界災害報告 2012 年版 要約」を逐条紹介し,東日本大震災と原発事故における問題を提起されている。

日本赤十字社
プレスリリース
世界災害報告 2012: 7,300 万人が強制移住
2011 年の災害の経済的損失 6 割が東日本大震災
http://www.jrc.or.jp/press/l3/Vcms3_00003253.html

世界災害報告 2012 年版 [要約] (日本語 PDF)
http://www.jrc.or.jp/vcms_lf/WDR2012_SummaryJP_light.pdf

それによると,この報告のなかに「移住は発展の破綻ではないことを認識しなければならない。移住は発展しうる前向きな適応戦略であるが,計画的かつ地域主体でなくてはならない」という記述がある。
また,「既存の規範や習慣との対峙や刷新の最大の機会ともなる」という指摘がある。
これは政府や NGO にとっても,また被災者自身にとっても重要な問題であるとおもわれる。既存の世界観や価値観を根本から見なおすことが必要,という意味にも通用するのではないだろうか?

小池田忠さんの「公営住宅の追い出しの実態と課題」は,災害避難者の問題として書かれたものではない。

美濃由美さんの「応能応益家賃制度とは何か」は同和住宅家賃値上げ反対運動の立場から書かれたものであり,直接には災害避難者の問題とつながるものではないが,運動の方法論としては参考にできる。

これまでに当ブログの編者 (寺本) が知りえた範囲では,震災被災者の住宅問題は切実であるにもかかわらず,関係者の表現はとても礼儀ただしく,慎重で,遠慮ぶかい表現のものが多い。それは誤解や分断を警戒せざるをえない,団体としての組織化がまだできていない,あるいは正式の委任を受けているわけではない,という状況の反映でもあるだろうが,関係者が国際法の視野を回避している傾向もあるのではないか? 国際法の視野を回避すれば当然に人権の視野を回避することになる。逆もおなじである。
大事なことは,「いますぐ効果があるかどうか」ではなく,人権の視野からみることで,状況がすべてちがってみえ,政府がどこへ行こうとしているのか,どこに問題があるのかがみえてくる,ということであり,そこから主体的要求の道がひろがる。また,人権の視野から考えるなら,住宅支援を受けていない被災者への支援も同時にとりあげることになるだろう。たとえ,いますぐに効果がないことがわかっていても。

そして,なにごとも「歴史的にみる」ことは重要であり,海外や日本のこれまでの住宅権利運動の歴史を学ぶことが大切とおもわれる。

神野武美さんの宇和島研究集会報告「精神障がい者の地域居住をどう支えるべきか」には,被災者支援活動のヒントになるものがある,とおもわれた。 (文責:寺本)