朝日新聞 DIGITAL (2016年4月14日)
(核リポート)事故から30年、チェルノブイリ法に学ぶ
http://www.asahi.com/articles/ASJ4F6V6LJ4FPTIL01Z.html

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記事のアドレス http://starsdialog.blog.jp/archives/59183192.html

 (編集者コメント)

小森敦司記者がロシア研究者,尾松亮さんにインタビューする形で,簡潔にわかりやすく整理されています。
重要な点がいくつかあります。
ひとつは,チェルノブィリ法は一部のエリートが引き受けて作ったものではなく,被害者が全国的な市民組織をたちあげて作ったという歴史的経過です。できあがった法律だけを比較するのではなく,歴史的経過を学ぶことで日本の展望が可能になるはずです。

尾松さんは 「チェルノブィリ法」 と日本の 「こども被災者支援法」 の決定的なちがいをありのままに見ておられます。ただ,その説明のなかで 「日本では基準を政府が定めていますが」 といわれていますが,「政府」 ということばはややあいまいになります。たとえば 「地方政府」 ということばもありますし,対外的には国会をふくむ 「権力」 を意味することばとしても使われます。より正確には 「日本では内閣がさだめていますが」 というべきでしょう。支援法第5条でも 「内閣がさだめる」 と書かれています。
もちろん尾松さんが指摘されているのは,「政府」 あるいは 「内閣」 のどちらの用語を使うとしても,結局,支援法の内容は,有権者が選んだわけではない 「官僚」 が決めていることに,チェルノブィリ法と日本の支援法との決定的なちがいがあるということです。これを正確に見ておく必要があります。
チェルノブィリ法では,被災地の定義,被災者の定義,具体的な支援の内容や方法が,法律の条文に直接明記されていますが,日本のこども被災者支援法は,これらを「内閣がさだめる」とした内閣一任手続法なのです。これは法律案が公表された時点で,すでにはっきりしていたのです。
「日本のこども被災者支援法はチェルノブィリ法にならって作られた」 という表現が,誇張や,伝聞や,推測としてまかりとおっていますが,自立した知性をもつ市民ならば,これが本当なのか,自分の目で確認する必要があります。法制定の準備過程でチェルノブィリ法を「参考にした」経過があることは事実でしょう。「参考にした」うえで,ちがう法律をつくったのです。

自主避難者に対する支援のちがいも,簡潔ではありますが具体的にとりあげていて,わかりやすい記事です。
最後の段落では,地方自治体 (地方公共団体) が独自に (条例や予算などによって) 避難してきた人を支援することができるし,そうすべきだと書いています。そのとおりなのですが,尾松さんはここでもチェルノブィリ法だけを参考としてとりあげているのがやや弱点です。方向は正しいのですが,それは 「社会権規約」 をはじめとする国際人権法や,それを根拠とする国連や IASC のガイドライン,勧告にも一致する方向であることを認識することが大切だとおもいます。
なぜなら,チェルノブィリ法は外国法であり,日本の内閣や地方公共団体は,それを参考とすることはできるが,遵守義務はないことがひとつ,そして,すでに日本国が (地方公共団体をふくめて) 遵守義務を負っている国際人権法 (およびそれを根拠とするガイドラインや勧告) を指標として,日本の社会を変えていくことがわたしたちの課題であるからです。
   
尾松さんの著書については記事の末尾でも紹介されていますが,
『3.11 とチェルノブィリ法――再建への知恵を受け継ぐ』 があります。
東洋書店
2013年3月18日初版
ISBN978-4-86459-076-1
定価 1800 円+税
・・・ですが,本日現在,Amazon で中古本が 27,471 円もしています!(たいていの図書館にはありそうなので図書館へ。)
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カテゴリー:チェルノブィリ関連情報
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チェルノブィリ法関係リンク集
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(文責:寺本)

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