(9月22日修正)
9 月 18 日,大気がすこしひんやり感じられる,うすぐもりの日。
原発賠償関西訴訟の第 1 回期日をむかえた大阪地裁正面玄関前には傍聴希望者があつまりはじめていた。あとで聞くと傍聴券抽選に参加したのは 219 人だったとのこと。裁判所からも多数の職員が整理に動員されている。
大阪地方裁判所
http://www.courts.go.jp/osaka/

まもなく原告団と弁護団の行列が,正門でのテレビカメラ撮影を通りぬけて入場してきた。傍聴待機者から自然に拍手が起こり,手をふる。先頭の原告,森松さんは幼い娘さんをだきあげて玄関の階段をあがり,その光景を見せているようだ。こどもたちもこの歴史的光景を記憶してくれるにちがいない。

正門前歩道で入廷行列を撮影したテレビカメラが,そのあとも敷地内の傍聴待機者の集団を撮影しているのが見えた。めずらしいことだ。現場に立ってみると,傍聴待機者の集団が,すでに立派な直接行動であり,だれにでもできる意思表示なのだということがよくわかる。

自分は傍聴券の抽せんにはずれたので,模擬法廷がひらかれる中央公会堂 3 階小集会室にむかう。正面入口ではなく,西入口から入るようにサポーターの案内があった。半円形のおしゃれな階段を地下にくだり,建物に入って,エレベーターで 3 階にあがる。

中央公会堂は一時とりこわしの話もあったが,市民の運動で保存がきまり,全面改修されて,新築のようにきれいになった。3 階小集会室は高い天井とステンドグラス,天井と壁面の立派な装飾で歴史的風格をもつ部屋だ。

きょうの模擬法廷と報告集会の会場としてふさわしいとおもわれた。
大阪市中央公会堂
http://osaka-chuokokaido.jp/

模擬法廷は,実際の法廷とほぼ同時進行ですすめられた。最初に法廷の配置の説明があり,廷吏役が事件番号をよみあげる。
裁判官役,原告代理人役,被告代理人役をすべて弁護士がつとめ,法廷とおなじ内容で展開される。

本日の法廷では第二次提訴までの 120 人が原告となっている。(原告総数は第三次提訴までで 225 人。)

最初の意見陳述は原告番号 1 番,原告団代表の森松明希子さんの陳述を代役の弁護士が朗読する。
・・・「20 年後のあなたへ。ここに 1 通の手紙があります」と陳述がはじまった。「ああ,これが出たんだなぁ」とおもい,あらためて耳をすませた。手紙の一部分だけを抜き書きするわけにはいかないが,ききながら「本当にそうだね・・・」と心のなかでうなづく。よく考え,よく書かれた手紙である。
この手紙は森松さんの著書に収録されている。
かもがわ出版 『母子避難 心の軌跡』
http://www.kamogawa.co.jp/kensaku/syoseki/ha/0676.html

つづいて避難の経過,こどもたちの甲状腺検査のこと,中学校で 300 人の生徒に体験を話したときの反応などがのべられ,陳述書朗読がおわると共感の拍手がおこった。

ほかに二人の意見陳述があり,それぞれの被災体験と気持ちが訴えられ,いずれも拍手につつまれた。

弁護士がパワーポイントをつかって口頭弁論をおこなう。最初の部分は「福島第一原発事故が被害者から奪ったもの」と題するスライドがつかわれた。原発事故,健康被害に対する永続的恐怖,家族との軋轢,住民相互の分断,社会生活関係からの分断など,被害者の苦しみが述べられた。
つづいて弁護士が交代しながら「国・東京電力の法的責任」,「避難の社会的相当性」について弁論が展開された。
ICRP 基準に照らしても,「どんなに低線量であっても被ばくを避けることは合理的な行動であること」,国内法で 3 年以下の懲役,300 万円以下の罰金などの刑罰をふくむ規制によって,公衆の被ばく線量限度を年間 1 mSv (ミリシーベルト) とさだめていることから,これは「論争の余地のない確立した社会規範」であり,「どんなに少なくても,生活圏内に 1 mSv/年を超える地点を含む地域から避難することには社会的相当性が認められる。」と結論した。非常に明快で,わかりやすい論理である。「よかった!これでいけるんじゃないか?」という印象をもった。

時間の進行とともに,西のステンドグラスがまぶしいほどに光り,やがてそれがしずかにやわらいでいく。わたしたちが,ともにその時間進行のなかに身をおいていることを,光の変化が感じさせてくれる。

最後に金子弁護団長の意見陳述書が朗読された。問題の全体像が的確,簡潔にのべられていると感じられた。
ここで模擬法廷は終了し,サポーターズからの連絡事項,法廷に出た弁護士や原告からの報告,京都の原告,兵庫と九州の弁護団からの発言があった。

記者会見に出ていた最後のグループが到着し,裁判所での進行協議に出席した木口弁護士から,第 2 回以降の期日が伝えられた。12 月 4 日,来年 3 月 5 日,5 月 28 日,いずれも午後 2 時からの予定となる。
白倉弁護士からは「傍聴希望者が多かったことが力になった。裁判所や世の中へのアピールになる」と重要な助言があった。受付の名簿からよばれた「大阪から公害をなくす会」,「尼崎医療生協」が発言し,水戸喜世子さん(水戸巌氏夫人),京都訴訟原告を支援する会の奥森さんからも発言があり,10 月 12 日に京都,兵庫,関西(大阪地裁)の三訴訟の交流会を京都で開催することが提案された。

熱気があふれるなかで閉会となり,中央公会堂を出ると,うす雲が晴れ,秋のあかるい夕空がひろがっていた。

この裁判の基本的意味は,とりかえしのつかない大規模な人権侵害をどう救済するのかということにある。人権侵害は市民社会全体の課題であり,裁判への理解,共感,支持を市民社会にひろげる可能性は十分にあるはずだ。なお,「災害時における人権保護」への理解をゆたかにするためには,国際法と世界標準の理解が大切であろうとおもわれる。
この裁判を,なにか「政治的にかたよった」裁判であるかのような評価をするなら,それは人権に対する理解のまずしさからくる錯覚である可能性がある。そもそも「政治的にかたよった」という固定観念はなにを意味しているのか?
また「政治的中立という善意」で沈黙し,傍観するならば,結果的に「大規模な人権侵害を傍観する」ことになるかもしれない。
わたしたちはこの裁判を通じて人間としてゆたかに成長していくのだ,と決意しよう,おおきな展望をもとう。そのためには,上からあたえられる固定観念に拘束されない,自由な,自立した精神によって多面的に情報を収集し,学習し,連帯していくという「生きかたの確立」から出発したい。 (寺本@高槻)
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
(報道)
NHK ニュース Web
http://www.nhk.or.jp/kansai-news/20140918/4062741.html

関西テレビ
http://www.ktv.jp/news/date/20140918.html#0481487
自主避難者の訴え:大阪地裁 (どこへ行く、日本。)
http://blog.livedoor.jp/gataroclone/archives/40271242.html
ラジオ・フォーラム
http://www.rafjp.org/release/report-140918/

(リンク)
東日本大震災による原発事故被災者支援関西弁護団
http://hinansha-shien.sakura.ne.jp/kansai_bengodan/index.html
原発賠償関西訴訟 KANSAI サポーターズ
http://kansapo.jugem.jp/

原発事故被災者支援兵庫弁護団
http://hinansha-hyogo.sakura.ne.jp/
東日本大震災による被災者支援京都弁護団
http://hisaishashien-kyoto.org/

(参考資料)

『国連グローバー勧告――福島第一原発事故後の住民がもつ「健康に対する権利」の保障と課題』
(合同出版,2014 年 8 月新刊)
http://www.godo-shuppan.co.jp/products/detail.php?product_id=444

「自然災害時における人びとの保護に関する IASC 活動ガイドライン」
(ブルッキングス版,日本語)
http://www.brookings.edu/~/media/research/files/reports/2011/1/06%20operational%20guidelines%20nd/0106_operational_guidelines_nd_japanese.pdf

「災害・紛争等緊急時における精神保健・心理社会的支援に関する IASC ガイドライン」
(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター)
http://www.ncnp.go.jp/pdf/mental_info_iasc.pdf
「国内強制移動に関する指導原則」 (GPID)
(成蹊大学版,日英左右対訳形式)
http://www.seikei.ac.jp/university/bungaku/teachers/20101201-2.pdf

以上



記事のアドレス http://starsdialog.blog.jp/archives/13154944.html

映像
20140918 原発賠償関西訴訟 第一回期日 模擬法廷(前半)
20140918 原発賠償関西訴訟 第一回期日 模擬法廷(後半)
https://www.youtube.com/watch?v=AVuhgZN72FA

(10月19日追加)
弁護士・金原徹雄のブログ
原発賠償関西訴訟の第1回口頭弁論を模擬法廷で追体験する(10月15日)
http://blog.livedoor.jp/wakaben6888/archives/40752737.html