(たろじいのブログ 2013.10.14)

3.11 という歴史的苦難に際して,新聞はなぜ無力だったのか。その裏側には,ジャーナリズムの欠落という,
日本の新聞が抱える根源的な問題があった。ニューヨーク・タイムズ東京支局長が明らかにする「新聞不信」の真実! (カバーより)

(たろじいのコメント)

著者は,日本特有の「記者クラブ」制度が,社会にとっても,報道機関にとっても,いかに弊害のあるものかを,ずばりと指摘している。
日本語と中国語ができ,日本での取材歴 12 年という著者だからこそ,発表記事や表面的な動きだけでは見えない矛盾をきちんと直視できたのだろう。

記者クラブでは,会員でない報道機関は記者会見への出席はほとんどできないし,オブザーバー出席ができても質問ができない。外国の報道機関や,雑誌,フリージャーナリストは基本的に排除される。

権力と報道の癒着を象徴する事件はいくつもあるが,北沢俊美元防衛大臣の 74 歳の誕生日を祝うパーティを,防衛省記者クラブが企画し,東京のイタリアン・カフェで約 50 人が参加した事例がある。産経新聞はこれを当然のことのように記事にしたのである。氷山の一角なのではないか。癒着というよりは報道の腐敗というのが正確だろう。著者の見方はまったく正しい。

著者は日本の新聞を批判するために書いたわけではなく,今後の新聞のビジネスモデルについても豊富な示唆を提供している。

ひとつ注目したいのは,「地方紙こそ英語版の充実した(ウェブ)記事を発信すべきだ」という提言 (p.204) である。

地方紙の記者たちが地元に住む自分たちの問題と思っていたものが,実は世界の関心事にもなりうる。メディアのグローバル化は,大きなニュースばかりがもてはやされるのではなく,これまで埋もれてしまっていた小さくとも良質なニュースが世界にひろがる可能性も秘めている。
これはいわゆるビジネスとしてメディアだけではなく,さまざまな社会活動においても,インターネットにおける英語(外国語)での発信が,その活動を大きくひろげることにも通じるだろう。
 

著者紹介
マーティン・ファクラー (Martin Fackler)
1966 年アメリカ合衆国アイオワ州出身。ニューヨーク・タイムズ東京支局長,イリノイ大学でジャーナリズムの修士号,カリフォルニア大学バークレー校でも修士号を取得したのち,96 年からブルームバーグ東京支局,AP 通信社ニューヨーク本社,東京支局,北京支局,上海支局で記者として活躍。05 年,ニューヨーク・タイムズ東京支局記者,09 年 2 月より現職。12 年,3.11 にまつわる一連の報道に関わった自身を含む東京支局スタッフはピュリッツァー賞国際報道部門のファイナリスト(次点)に選出された。 (カバーより)


「本当のこと」を伝えない日本の新聞
双葉新書 044
2012 年 7 月 8 日 第 1 刷発行
著者 マーティン・ファクラー
発行所 株式会社双葉社
http://www.futabasha.co.jp/
定価 800 円+税
ISBN978-4-575-15394-1



記事のアドレス http://starsdialog.blog.jp/archives/10001781.html